【同人書評】カブトガニ試食会/間澄ひつき短編作品集「迷う者、導く者」

kabutogani

カブトガニ試食会/間澄ひつき短編作品集「迷う者、導く者」

データ
作者:間澄ひつき
紙数:86
版型:A5ソフト
割付:上下二段
文字以外の要素:
表紙:上質紙(特殊)
カバー:なし
印刷:――

【御縁と寸評】
見本誌コーナーにて、和紙風の表紙とタイトルに
引かれて、掴む。
紙を束ねてホチキスで止めただけの無骨な製本も
嫌いではない。
一人で書かれた短編集らしい。
(裏表紙見る)「カブトガニ試食会?」
更に走り書きのコメントで「カブトガニは出ません。」
どっちやねん! と思わず口走ってしまった。
「ひょっとして、タイトルの迷う者、導く者ってのと関係が?」
などと思い始めたが最後、真相を確かめたくなって、購入。

『その電車は何処へ行くのか』――
前半どんどん引き込まれていったのに、
「○○オチ」な展開で後半が始まる。
もうね、此の年になるとオジサンは
学園の男女を見せつけられると
眩し過ぎて目がくらむ。
しかし活き活きとしたキャラたちに中てられるせいか、
不思議と和やかな、どことなく懐かしい、
自分もそこにいたような、
そんな感じがふわっとクル。

クルといえばラスト、そう来ますか。
若いねー、若い!眩しい!鬱・・・。
鬱過ぎてカブトガニの裏側を見せつけながら
「カブトガニ!」とにじり寄りたい!
ところで、「ドクペ」とは何ぞやとググってみた。
杏仁豆腐の味だというので
いつか飲んでみようと思った。

『白仮面』――<修正済み>
ニュートラルな世界観を演出する軽妙な文体と、
その存在性に見合ったエキストラの描写に引き込まれる。
「男の子」は物語のカギになりそうな
ミステリアスな立ち回りをしながら、
最後の一行が拍子抜け。
私なら途中伏線を入れ
眞逆のニュアンスを喋らせるところだが、
作者はそういう安易な因縁譚を回避する。
否、むしろ全体像の背後に
「対人用の仮面を付けてコミュニケイションする人間」→
→「仮面なしでは個を認識されない現代社会」
といったテーマを見出すなら
この物語はむしろ、秋葉で起きた殺傷事件が題材
というかそのものなのでは、という妄いもする。

『旧市街の夜』――
少年と少女との小さな冒険譚。
ちゃんと子供らしい主観の文体になってます。
甲冑が挟まったところは笑ったけれど、
ラストは切ない。あと、作者、仮面好きですね(笑)。

『ラブソング』――
愛という感情の欠落した男女が、
國が認可した臨床実験を受けて
愛を知るようになったが、やがて問題が露呈する。
そこで二人は愛を回路で制御するというこの処置を
継続するか否かの選択を委ねられ・・・、というお話。
先の読めない展開、
静かだけれど存在感のあるキャラクタァ、
そのキャラの言動で構築されていく必要最低限の世界
(の描写手法)は本作でも如何なく発揮されており、
見事である。
心象風景の描写も含めて文体が淡々としていて、
それがテーマに沿った雰囲気をうまく醸している。

愛するようになった男女の日常生活なんてものは
「つないでる手の上に鳥フン落ちろ!」っていうぐらいに
クソであるが、そのクソビッチが作者の文体を通すことで、
どことなく儚いものとして浮かび上がってくる。
それは陽介(主人公)が時折感じる違和感と
同調しており、そのある種の幸福に対する不安感――、
つまり、何か決定的なものと引き換えにして手に入れた
という後ろめたさが、人魚姫のような悲哀を帯びて
一見幸せなんだけど、ほんとうにこれで良かったのか
という思い、そういう相反する思いが根底にあるのが解るから、
読み飛ばすこともなくページが繰れた。

ラストの陽介の心情はいろんな解釈ができておもしろく、
かつ切ない。
ほんの僅かの接点しか無かったのにずっと印象に残る人。
そんな想いを時折取り出しては眺めてみるこれからの新生活。
恋愛というとちょっと身構えてしまうけれど、
その本質は出逢いと別れ――一期一会なんだと、
読み終えた後に見る五月の空は深みのある青をしていて、
思わず「すべて世は事もなし」と、またぞろ虚しくなっちまいました。

『迷う者、導く者』――
最後を飾るのは表題作。
小説というより戯曲といった趣の文章。
主人公が夜の丘から飛び立つ
(フランダースの犬x宮澤賢治みたいな)シーンが
とても印象的なのに、またしても「○○オチ」ですか。
でも逆に言えば、
作者はファンタジー的な世界観は好むけれども、
ファンタジー的なオチは好まないということで、
ちゃんと主題を着地させる様式美的な安定感があるのは事実。

譬えるなら、体操競技でとても幻想的な演技を披露し、
大技も決めるが、着地は割とシンプル。でも崩れない、みたいな。
最後に超回転しながらどこか遠くへ飛んでいき
会場どよめいてやまぬというような感じではないですが、
演技の終盤、大技の後の着地というのはやはり難しく、
それによって観る者の印象も変わるので、
迷いのない着地というのはやはり気持ちの良いものがあるのも事実。

@

総評
次回作も期待してます!

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